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綾部市物部地区在住


by ayabemorinaga

さよならのあとで

ある養護施設に秀子という子がいた.知能障害があってもう小学校三年生であるのに、字も読めず自分の名前すら書けなかった。小学校一年生のクラスに入れてもらっているが、それでも授業が分からないので、独り校庭でブランコに乗って遊んでいる。長雨で施設にナメクジがたくさん出たので、秀子に塩を渡してナメクジ退治を頼んだ。ところが秀子は、ナメクジを殺さずビンに入れて飼っていた。
それが夜中に這い出して大騒ぎとなった。殺してくれと頼んだのに秀子さんダメではないか。と施設の人がとがめたら、秀子は口をとがらせて抗議した。だってナメクジだって生きているもん、殺せばかわいそうだ。飼っておけば大きくなるでしょう。その答えに思わず周囲の人が吹き出し大笑いをした。秀子は馬鹿にされたと思ってしくしく泣き出した。周りの人達も、笑って御免ね秀子さんの云っていることが正しいよ。(誰が教えたのでもない、しかし、秀子は命の大切さを知っていたのだ。)

またあるとき、施設の女子の部屋が騒がしい。秀子ちゃん汚い、もうやめて風邪をひくわよ。みると、秀子が寝小便でぬれた布団の上で寝ている。秀子ちゃんおねしょしたの--ううん私、乾かしてあげているの--秀子の布団でなく、見れば他の子の布団である。--私の身体は温かいので、寝ていればそのうち乾くの--秀子が答えていた。
秀子も18才になったので施設を出て家に帰り、母の手伝いをしていた。ところがある日、母が外で仕事をしている間、秀子は朝食の準備をしていたが、囲炉裏にころげ落ちて、全身におお火傷でのため亡くなった。しばらくたってから、秀子の母親が施設に赤いほほずきの実をたくさん持ってきた。秋になってホオズキが赤くなったら、お世話になった施設の子に持って行ってやるのだと、秀子が庭にうえていたという。
秀子の温かい心遣いが伝わってくる。赤いホオズキは秀子の温かい心遣いの結晶だ。
by ayabemorinaga | 2015-01-11 12:03 | 教育・学校